東京地方裁判所 昭和38年(ワ)8466号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕本件(一)、(五)、(七)の各土地は原告が昭和二三年一月一一日合名会社二樹園から買い受けて所有権を取得したものであり、(二)ないし(四)および(六)の各建物は原告が建築して所有権を取得したものであつたが、原告は右各土地についてはその子水野善雄の名義で所有権移転登記を経、右各建物についてもその子である水野善雄または水野喜美代の名義で所有権保存登記を経ていた。そして被告佐藤は、右(五)、(六)の物件を昭和三三年一月一四日所有名義人の善雄から買受け、他の物件は、登記簿上各所有名義人から宮本求に、次いで寺町博に、次いで高峰森林株式会社にと転々譲渡された後、前同日右会社から善雄が買取つてこれを被告に売渡し、いずれも被告佐藤への所有権移転登記を経た。原告は、本件物件の各登記名義人をその子善雄または喜美代としておいたのは、単に便宜上原告の一存でしたことであり、同人らは真実は所有権を有しなかつたもので、本件各物件の所有権は依然として原告にあると主張して、被告らに対し本件各物件の所有権確認、所有権移転登記手続、根抵当権設定登記等の抹消等を求めた。被告らは、右善雄、喜美代の各登記が仮装無効のものとしても、自からさような登記をした原告は、第三者たる被告に対し無効をもつて対抗できないと抗争する。
判決は、本件物件はいずれもその登記名義にかかわらず、原告の所有に属していたものと認定したうえで、原告がその所有権をもつて第三者に対抗しうるかにつき、次のように判決している。
〔判決理由〕しかしながら、右原告がその所有権をもつて第三者に対抗しうるかは別個の考察を要する。
本件物件中、土地は、前所有者訴外二樹園から喜雄へ直接移転登記され、建物は、訴外喜美代あるいは善雄名義に保存登記された点は前に認定したとおりであり、それらの登記が所有者たる原告の一方的な意思によるものであることは、原告の自認するところである。その上、本件の場合は、被告佐藤は目録(五)、(六)の物件を除いた本件物件を原告が自ら訴外高峰森林名義にしたことは、原告の自認するところであり、しかる後、訴外善雄が右高峰森林から買受け、これを右佐藤が買取つたものである点、当事者間に争いがないところである。又、(五)、(六)物件は、原告本人尋問の結果及び成立に争いない甲第二号証の五、六によると、原告は自ら所有権移転請求権保全仮登記等をするなど処分行為をなしながら、相変らず訴外善雄名義にしておいたものと認められる。
かような場合、右登記の記載に現われた表示を信頼して、その上に利害関係を有するに至つた善意無過失の第三者に対しては、その登記の無効を主張することは、信義誠実の原則に反し、あるいは禁反言の原理にもとるものとして許されず、右の第三者はその登記に対応する権利を有効に取得するものと解するのが相当である。
そして、被告佐藤本人尋問の結果によると、被告佐藤が訴外善雄と本件物件につき売買契約を締結した事情は、初め、訴外田中某より話がもち込まれたが、調査したところ、本物件の所有名義が訴外高峰森林の他岡本垣次のものになつていたので、一旦は断つたが、善雄側の希望によつて、善雄が本物件を買戻しうることをたしかめた上、結局買うことにしたものであると認められる。その間、売買の交渉は、善雄が独断でしたことが同人の証言から認められるから、被告佐藤は、本物件の所有権は善雄に属し、そのため同人が買戻しうるのだと信じたと判断するのが相当である。
従つて右認定の如き事情の下にあつては、被告佐藤が、登記簿の表示に拘らず、所有権が原告に属することは知らなかつたと認められ、又右述交渉の過程からみて、その点被告佐藤に過失がなかつたものと認められるから、原告はその所有権をもつて、同被告に対抗できないものと解する。そして、被告佐藤がその後本件物件を被告平和相互銀行に担保に供した点争いがなく、又成立に争いがない甲第二号証の一乃至七から、被告平和相互銀行が同熊谷組にその権利を譲渡したと認められるから、被告平和相互銀行、同熊谷組も、いずれも登記の欠缺を主張する正当の利益を有する第三者であることは当然であり、原告がその所有権をもつて同被告らに対抗することは許されない。 (石田哲一 岡垣学 荒木友雄)